今の住宅ローンは低金利が続いており、住宅ローン減税による控除の方が住宅ローンの金利より大きいため、あえて繰り上げ返済しない方が儲かることになっています。
しかし、最近は金利の上昇の可能性があります。どれくらいまで金利が上昇したら、住宅ローン減税よりも金利負担が大きくなるのでしょうか?
一般には1%や0.7%と言われているが…?
単純に考えると、ローンの金利が住宅ローン減税による控除率(2023年1月に新規借入だと0.7%、2021年12月までは1.0%)を超えたら、住宅ローン減税の効果が無くなるので繰り上げ返済するべきです。
しかし、ローンの金利は毎月支払っているのに対して、住宅ローン減税による控除は年末や翌年になり、入出金のタイミングが異なります。そのため、正確に計算すると、金利が上がって繰り上げ返済するべき利率の境界線は1%ちょうどではありません。
具体的には、1年の初めに借入を行い毎月末に金利分を支払い、年末に年末調整によって住宅ローン減税による入金があり、住宅ローン控除率が1%だとすると、次の式が1月〜12月の住宅ローン減税を考慮した金利による支出になります。低金利(例えば0.5%)のときだとこれがマイナスになるため、繰り上げ返済しない方が儲かることになります(なおインフレ率はいったん無視する)。
ここで
金利、月末の借入残高、毎月の金利+元本の返済額とします。
これを解析的に解こうとすると12次方程式を解く必要が出てきます。もちろん適当なソフトを使えば解くことはできますが…検算のためにもMS Officeテンプレートにあるローン計算シートを使い、手動で様々な数値を試してみることにします。
この結果、金利が0.9868%のときに、1〜12月の利息支払額と12月末の住宅ローン減税による控除(一般的には控除の分だけ多めに入金される)額がほぼ同じになります。そのため、2021年以前に借りた住宅ローンについては、金利が0.9868%を超えた段階で繰り上げ返済に励むことが良いと言えます。
インフレを考慮した場合の計算
インフレ率を考慮する場合、インフレ率で割り引いた現在価値(Present Value: PV)で比較する必要があります(この辺のことは金融工学の入門書や簿記1級のテキストなどに書いています)。
インフレ率をRとすると、上の数式は次のように変わります。
本記事執筆時点(2023年1月)で日本では急激な物価上昇が起こっていますが、いったんインフレ率を1%として同様の計算を行うと、金利が0.9824%のときに住宅ローン控除と支払利息が現在価値ベースでほぼ同額になります。そのため、金利が0.9824%を超えた段階で繰り上げ返済を行うのが良いでしょう。なおインフレ率が上がると、この境界線となる金利も下がる傾向にあります。
金利だけ見て繰り上げ返済を判断するべきか?
上でみたように、支払金額だけで考えると、金利が1%を少し下回る段階でも繰り上げ返済を行った方が良いことになります。
ただし、多少の現預金は生活+臨時の出費に必要なため、有り金をすべて突っ込んで繰り上げ返済を行うべきとは思いません。さらに、住宅ローン借入時に加入している団信は生命保険の代わりとも考えられるほか、精神的なリスク許容度も個人差が激しいので、実際に繰り上げ返済を行うタイミングや繰り上げ返済する金額は人によって大きく異なります。